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最終更新日: 2026年7月22日(2011年8月再改訂版に準拠)

国土交通省「原状回復ガイドライン」完全解説

賃貸住宅の退去時に「どこまでが借主の負担か」を判断する全国共通の基準が、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」です。このページでは、年間9,787件の退去対応実績を持つ原状回復の専門業者スム住むが、貸主負担・借主負担の区分一覧表、経過年数と耐用年数の考え方、特約が有効になる3つの条件、ガイドラインPDFの入手先まで、実務目線でわかりやすく解説します。

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目次

  1. 原状回復ガイドラインとは(正式名称・最新版・法的拘束力)
  2. 2020年4月施行の改正民法621条との関係
  3. 貸主負担・借主負担の区分一覧表(部位別)
  4. 経過年数と耐用年数の考え方(クロスは6年で残存価値1円)
  5. 特約が有効になる3つの条件
  6. よくあるトラブルと判例の傾向
  7. ガイドライン本文(PDF・冊子)の入手方法
  8. よくある質問(FAQ)

原状回復ガイドラインとは(正式名称・最新版・法的拘束力)

一般に「国土交通省の原状回復ガイドライン」「国交省ガイドライン」と呼ばれている文書の正式名称は、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」です。賃貸住宅の退去時に発生しやすい原状回復費用の負担をめぐる貸主(オーナー)と借主(入居者)のトラブルを未然に防ぐため、費用負担のあり方について妥当と考えられる一般的な基準を示したものです。

ガイドラインは1998年3月に初めて取りまとめられ、その後2004年2月に改訂、2011年(平成23年)8月に「再改訂版」として現在の形になりました。2026年7月現在の最新版は、この2011年8月の再改訂版です。「2025年版」「2026年版」といった新しい版が出たわけではないため、検索で年号付きの情報を探している方も、参照すべき文書は再改訂版で変わりません。なお、2020年4月に民法が改正されていますが、これは法律側の変更であり、ガイドラインが新しくなったわけではない点に注意してください(詳しくは次の章で解説します)。

「原状回復」の定義──借りた当時の状態に戻すことではない

ガイドラインの最大のポイントは、原状回復を「借りた当時の状態に戻すこと」ではないと明確にしたことです。原状回復とは、借主の故意・過失や善管注意義務違反(善良な管理者としての注意を怠ること)、その他通常の使用を超える使い方によって生じた損耗・毀損を復旧することを指します。裏を返せば、普通に暮らしていて自然に生じる「通常損耗」や、時間の経過による「経年変化」は、原状回復の対象に含まれません。これらの修繕費用は、賃料に含まれているという考え方に基づき、貸主が負担するのが原則です。

ガイドラインに法的拘束力はあるのか

ガイドラインは法律ではなく、あくまで指針(ガイドライン)であるため、それ自体に契約を直接拘束する法的強制力はありません。しかし実務上は、裁判や調停、消費生活センターでの相談対応において事実上の判断基準として広く参照されており、退去精算の「共通言語」として機能しています。さらに、2020年4月施行の改正民法でガイドラインの基本的な考え方が条文として明文化されたため、「ガイドラインはあくまで目安だから無視してよい」という主張は通用しにくくなっています。管理会社・オーナー・入居者のいずれの立場でも、内容を正しく理解しておくことがトラブル防止の第一歩です。

2020年4月施行の改正民法621条との関係

2020年4月1日に施行された改正民法では、それまで判例とガイドラインの運用に委ねられていた原状回復のルールが、初めて法律の条文として明文化されました。民法621条は、賃借人(借主)は賃借物を受け取った後に生じた損傷について原状回復義務を負うものの、「通常の使用及び収益によって生じた損耗」と「経年変化」はその対象から除かれること、また借主に責任(帰責事由)がない損傷についても原状回復義務を負わないことを定めています。

あわせて民法622条の2では、敷金の定義と返還義務が明文化されました。敷金は賃料債務などを担保するために借主が貸主に交付する金銭であり、賃貸借契約が終了して物件が返還されたときに、未払賃料などを差し引いた残額を借主に返還しなければならないと定められています。「敷金は原則返ってくるお金」であることが、法律上も明確になったといえます。

では、ガイドラインと改正民法はどのような関係にあるのでしょうか。両者は対立するものではなく、民法が「大原則」を定め、ガイドラインが「実務の詳細基準」を示す補完関係にあります。たとえば「通常損耗とは具体的にどのような損耗か」「借主負担となる場合に経過年数をどう考慮するか」といった細部は民法には書かれておらず、ガイドラインの負担区分表や耐用年数の考え方が引き続き実務の拠り所となります。つまり、民法改正後もガイドラインの重要性はむしろ増しているのです。

ポイント: 改正民法の規定が直接適用されるのは、原則として2020年4月1日以降に締結・更新された契約です。それ以前の契約でも、ガイドラインの考え方は判例を通じて同様に参照されるため、実務上の判断基準は大きく変わりません。

貸主負担・借主負担の区分一覧表(部位別)

ガイドラインの基本原則はシンプルです。経年変化・通常損耗(日照による壁紙の変色、家具の設置跡、画鋲の穴程度)は貸主負担故意・過失・善管注意義務違反による損耗(タバコのヤニ・臭い、ペットの傷、結露を放置したカビ、飲みこぼしのシミなど)は借主負担です。以下に、退去立会いの現場で判断に迷いやすい代表的なケースを部位別にまとめました。

部位 損耗・毀損の例 負担者 ガイドラインの考え方
壁・天井(クロス)
壁紙日照など自然現象による変色貸主避けられない経年変化
壁紙テレビ・冷蔵庫の背面の黒ずみ(電気ヤケ)貸主家電の通常使用に伴うもの
壁紙画鋲・ピンの穴(下地ボードの張替えが不要な程度)貸主ポスター掲示などは通常の使用の範囲
壁紙釘穴・ネジ穴(下地ボードの張替えが必要な程度)借主画鋲より深く、通常の使用を超える
壁紙タバコのヤニによる変色・臭いの付着借主通常の使用を超える使用と判断される
壁紙結露を放置したことによるカビ・シミ借主手入れを怠った善管注意義務違反
床(フローリング・カーペット・畳)
家具の設置による床・カーペットのへこみ、設置跡貸主家具の設置は通常の生活に不可欠
フローリングの色落ち(日照によるもの)貸主自然現象による経年変化
飲み物などをこぼしたことによるシミ・カビ借主こぼした後の手入れ不足は善管注意義務違反
引越作業で生じた引っかきキズ借主借主の過失によるもの
キャスター付きイスなどによるキズ・へこみ借主使用方法への配慮が求められる
建具・柱・ガラス
ガラス地震で破損したガラス、網入りガラスの自然な亀裂貸主自然災害・構造上の問題は借主に責任なし
柱・建具ペットによる柱・クロスのキズや臭い借主通常の使用を超える損耗と判断される
壁・建具落書きなど故意による毀損借主故意による毀損は借主負担の典型例
設備・鍵・クリーニング
設備設備機器の故障・使用不能(機器の寿命によるもの)貸主経年劣化。物件維持は貸主の義務
鍵の取替え(破損・紛失がない場合)貸主次の入居者確保のための取替えは貸主負担
鍵の紛失・破損による取替え借主借主の管理責任によるもの
水回り風呂・トイレ・洗面台の水垢・カビ(手入れを怠ったもの)借主通常の清掃を怠った善管注意義務違反
キッチンガスコンロ置き場・換気扇の油汚れ・スス(手入れ不足)借主使用後の手入れを怠った場合は借主負担
全体専門業者によるハウスクリーニング(通常の清掃を実施していた場合)貸主次の入居者確保のためのもの(※有効な特約がある場合を除く)

借主負担でも「最小施工単位」が原則

借主負担と判断された場合でも、負担範囲は善管注意義務違反があった箇所を含む最小施工単位が原則です。たとえば壁紙なら毀損箇所を含む「壁1面分」が目安であり、部屋全体の張替え費用を全額請求されるのは不当なケースがあります。色や模様を合わせるための全面張替えを希望するのは貸主の自由ですが、その場合の毀損箇所を超える部分の費用まで借主に転嫁することは、ガイドラインの考え方に沿いません。精算書に「クロス張替え一式」としか書かれていない場合は、面積と単価の内訳を確認することをおすすめします。

経過年数と耐用年数の考え方(クロスは6年で残存価値1円)

ガイドラインのもう一つの重要な柱が、経過年数(入居年数)の考慮です。建物や内装材は時間の経過とともに自然に価値が減っていくため、借主に故意・過失があった場合でも、新品への張替え費用を全額負担させるのは公平ではありません。そこでガイドラインは、部位ごとに耐用年数を設定し、経過年数に応じて借主の負担割合を減らしていく考え方を採用しています。

部位・内装材 耐用年数の扱い 退去時の負担イメージ
壁紙(クロス)6年(6年で残存価値1円)3年居住なら借主負担は約50%、6年以上ならほぼゼロに近づく
クッションフロア6年(6年で残存価値1円)クロスと同様、経過年数に応じて負担割合が減少
カーペット・畳床6年経過年数に応じて負担割合が減少
フローリング(部分補修)経過年数を考慮しないキズ等の部分補修費用は経過年数に関係なく借主負担
フローリング(全面張替え)建物の耐用年数で残存価値1円となる直線を想定築年数が古いほど借主の負担割合は小さくなる
畳表・襖紙・障子紙消耗品として経過年数を考慮しない毀損があれば張替え費用を負担(畳1枚・襖1枚単位)

計算例: 入居3年でクロスにタバコのヤニ汚れがある場合

クロスの耐用年数は6年ですから、入居3年時点での残存価値は約50%です。喫煙による変色・臭いで壁1面(仮に10㎡)の張替えが必要になった場合、張替え費用が仮に1㎡あたり800〜1,200円なら工事費は8,000〜12,000円程度、そのうち借主負担は約50%の4,000〜6,000円程度が目安になります。「ヤニ汚れがあるから全額借主負担」と単純に精算するのは、ガイドラインの考え方とは異なるわけです。

注意: 「6年住めば残存価値1円=何をしても負担ゼロ」ではありません。故意・過失で使用可能なものを毀損した場合には、張替えの施工費や人件費など工事費用の一部について負担が生じることがあるとされています。経過年数の考慮は、あくまで公平な負担割合を算出するための仕組みです。

特約が有効になる3つの条件(ハウスクリーニング特約など)

賃貸借契約には契約自由の原則があるため、当事者の合意によりガイドラインの原則と異なる「特約」を設けること自体は可能です。代表例が、退去時のハウスクリーニング費用を借主負担とするハウスクリーニング特約です。ただし、借主に通常の原状回復義務を超える負担を課す特約が有効と認められるためには、ガイドラインが判例をふまえて整理した次の3つの要件を満たす必要があるとされています。

条件1: 特約の必要性と合理的理由

特約を設ける必要性があり、かつ暴利的でないなどの客観的・合理的な理由が存在すること。相場からかけ離れた高額なクリーニング費用を課す特約は、この要件を満たさないと判断されるおそれがあります。

条件2: 借主が義務の内容を認識していること

借主が、特約によって通常の原状回復義務を超える修繕等の義務を負うことを認識していること。契約書に負担範囲や金額が具体的に明記され、契約時に説明されていることが重要です。

条件3: 借主が義務負担の意思表示をしていること

借主が特約による義務負担について意思表示をしていること。署名・押印などにより、内容を理解したうえで合意した事実が求められます。

実務では、「退去時のハウスクリーニング費用として○○円(税込)を借主が負担する」のように金額と範囲が具体的に明記され、その金額が相場の範囲内であれば、有効と判断されやすい傾向にあります。逆に「一切の修繕費用は借主の負担とする」「クロスは全面張替えとし費用は借主負担」のような包括的・不明確な特約や、通常損耗まで広く借主に転嫁する特約は、無効と判断されるリスクが高いといえます。管理会社・オーナー側にとっても、後から争いになる特約より、明確で合理的な特約と透明性の高い精算のほうが結果的にトラブルコストを減らせます。

よくあるトラブルと判例の傾向

原状回復をめぐる相談は、全国の消費生活センターに寄せられる賃貸住宅関連の相談の中でも常に上位を占めるテーマです。退去立会いの現場で実際に多いトラブルのパターンと、裁判例の大きな傾向を押さえておきましょう。

現場で多いトラブルの典型5パターン

  • 通常損耗まで請求される — 家具の設置跡や日照による変色など、本来貸主負担のものが精算書に計上されている
  • 経過年数が考慮されていない — 長年居住したのにクロス張替え費用が新品価格の全額で請求されている
  • 施工単位を超える請求 — 壁1面で済む毀損なのに部屋全体・全面張替えの費用が請求されている
  • 内訳のない一式見積 — 「原状回復費用一式○○円」のみで、単価・数量・施工箇所が示されていない
  • 特約の説明不足 — 契約時に説明のなかった高額なクリーニング費や補修費が特約を根拠に請求される

判例の大きな傾向

裁判例の流れとして特に重要なのが、最高裁平成17年12月16日判決です。この判決では、通常損耗の補修費用を借主に負担させる特約(通常損耗補修特約)が成立するには、負担する範囲が契約書の条項自体に具体的に明記されるなど、その旨の明確な合意が必要だと判断されました。以後の裁判実務でも、曖昧な特約は借主に不利に拡大解釈しない方向が定着しており、ガイドラインの負担区分と経過年数の考え方に沿って費用を按分する判断が主流です。

精算内容に納得できない場合、入居者側はまず精算書の内訳(施工箇所・数量・単価)の提示を求め、ガイドラインの負担区分と照らし合わせるのが第一歩です。話し合いで解決しない場合は、消費者ホットライン(188)や各自治体の消費生活センター、少額訴訟(60万円以下の金銭請求)といった選択肢があります。詳しい対処手順は原状回復トラブル対処法のページで解説しています。

一方、管理会社・オーナー側にとっての教訓は、「根拠を示せる精算」こそ最大のトラブル予防策だということです。スム住むでは、入居時・退去時の状態確認と、ガイドラインに沿った負担区分の整理を前提に、管理会社・オーナー・入居者の三者に透明性の高い退去プロセスをご提供しています。原状回復工事をご依頼いただく場合、退去立会代行は完全無料です。

ガイドライン本文(PDF・冊子)の入手方法

「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」の全文は、国土交通省の公式サイトでPDFとして無料公開されており、どなたでもダウンロードできます。書店で購入しなくても、一次資料そのものを手元に置けるということです。冊子の形で使いたい場合は、PDFを印刷してファイリングするのが確実です。

公式の入手先(国土交通省)

国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」掲載ページ:

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000020.html

ガイドラインには、費用負担の考え方を示した本文のほか、部位別の負担区分を整理した一覧表、実務上の疑問に答えるQ&A、参考となる裁判事例が収録されています。全体をじっくり読む時間がない方は、まず本ページで全体像をつかんだうえで、気になる部位の該当箇所を原文で確認するという使い方が効率的です。管理会社・オーナーの方は、精算書作成時の根拠資料として常備しておくことをおすすめします。

よくある質問(FAQ)

Q1. 原状回復ガイドラインの最新版は2025年版・2026年版ですか?

いいえ。2026年7月現在、最新版は2011年8月に公表された「再改訂版」です。それ以降、ガイドライン自体の改訂は行われていません。2020年4月の民法改正は法律側の変更であり、ガイドラインの新版発行ではありません。改正民法とガイドラインの考え方は基本的に一致しています。

Q2. 原状回復ガイドラインに法的拘束力はありますか?

ガイドライン自体は法律ではないため、契約を直接拘束する強制力はありません。ただし、裁判や調停では事実上の判断基準として広く参照されており、2020年4月施行の改正民法621条で「通常損耗・経年変化は借主の原状回復義務に含まれない」という基本原則が明文化されたため、実務上の重みは非常に大きくなっています。

Q3. 6年以上住んだら壁紙の張替え費用は払わなくてよいのですか?

壁紙(クロス)の残存価値は6年で1円となるため、経過年数だけを見れば借主の負担は大幅に減ります。ただし、タバコのヤニや故意の毀損など善管注意義務違反がある場合は、張替え工事の施工費や人件費の一部について負担を求められることがあります。「6年住めば必ず全額免除」とは言い切れない点に注意が必要です。

Q4. ハウスクリーニング特約は有効ですか?

特約の必要性と客観的・合理的理由があり、借主が通常の原状回復義務を超える負担を認識したうえで合意している場合は有効とされています。実務では、契約書に金額や範囲が具体的に明記され、その金額が相場から大きく外れていないことがポイントです。「一切の修繕費用は借主負担」のような包括的で曖昧な特約は無効と判断されやすい傾向があります。

Q5. ガイドラインの冊子やPDFはどこで入手できますか?

国土交通省の公式サイトで全文がPDFとして無料公開されており、どなたでもダウンロードできます。冊子として手元に置きたい場合は、PDFを印刷して利用するのが確実です。本文のほか、負担区分の一覧表やQ&A、裁判事例も収録されており、管理会社・オーナー・入居者のいずれにとっても実務の必読資料です。

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